大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)5419号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕<前略>二、そこでまず、被告抗弁の賃貸借の成否(抗弁1)について検討するに、被告の主張事実中、昭和一二年一〇月八日被告の前身である旧長久寺と原告の前身である旧妙経寺との間に本件土地の賃貸借契約が締結されたこと並びに原被告双方が被告主張の如き法令上の変遷を経て宗教法人法に基づいて設立された宗教法人であることは当事者間に争いがない。そして右争いなき事実に、<証拠>を総合すると、旧長久寺は、土地区画整理事業のため、無縁墓地のあつた境内地の一部が減地されることになり、無縁墓地を他に移転しなければならなくなつたため、昭和一二年一〇月八日、当時旧妙経寺の住職であつた井畑友哲の好意によつて、旧妙経寺から登記簿上は訴外有光友逸の所有名義にはなつていたが、実質は両寺の寺有地であつた本件土地を無縁墓地の整備用地として賃料、納税料年額各金二〇円、合計金四〇円を毎年一二月三〇日に支払う約旨で、期間は特に定めなかつたが、相当長期間賃借することになつたことを認めることができ、<証拠判断略>。他に右認定に反する証拠はない。
三、そこで次に、原告の本件賃貸借契約は無効である旨の再抗弁(再抗弁1)について検討するに、本件賃貸借契約締結当時本件土地が旧妙経寺の寺有地であり、右賃貸借が、無縁墓地の整備用地という使用目的からみても相当長期にわたるものであつたことは前記認定のとおりであるから、右賃貸借契約は当時施行の明治六年大政官布告二四九号、同九年教部省達三号にいう寺有財産の処分に該当するものと解すべく、しかも、右賃貸借が主務官庁の認可を受けていなかつたことは当事者間に争いのないところであるから、本件賃貸借契約は、およそ寺有財産は自由に処分することを許さず、これを処分する場合は主務官庁の認可を要する旨を定めた右各布達に違反するものといわなければならず、この点に関する被告の主張は理由がない。
ところで、右の如き布達違反の賃貸借契約の効力については議論が存し、見解の分れるところであるが、本件の如き前記布達違反の賃貸借契約も、ひとしく寺有財産の部分とはいつても、寺院の重要な財産についてその所有権を喪失し、またはこれと同視しうべき場合と異なり、当然にその全部無効をきたすものではなく、賃借人側に民法六〇二条所定の短期間なら契約しなかつたであろうというような特段の事情のない限りは、処分権限を有しない者のなした賃貸借契約の場合と同様に存し、右法条所定の期間を越えない短期の賃貸借として有効に成立したものと解するのを相当とすべきところ、前記認定の事実関係、殊に旧長久寺が前記認定の如く早急に無縁墓地を移転しなければならない実情にあり、しかも旧妙経寺住職の好意によつて本件土地を貸借することができた事情等を合せ考えれば、旧長久寺としては、たとえ前記法条所定の短期間であつても本件土地を借り受けたであろうとは推認されても、右如き短期間ならこれを借り受けなかつたであろうと思われるような特段の事情は認めがたいから、本件賃貸借契約は民法六〇二条二号の五年の期間を越えない限度において有効に成立したものと解するのが相当である。
なお被告は、(1)仮に本件賃貸借について主務官庁の認可が必要であつたとしても、その申請手続は旧妙経寺においてこれをなすべきものであつたのに、自らはこれをなさずにおいて、その結果の不利益を被告に転嫁せしめることは許されないし(再々抗弁1)、(2)また右認可はあたかも農地法における都道府県知事の許可と同じく当事者の法律行為に対する一の補充行為たる性質を有するものというべきであるから、前記のように寺院に関する法令の変遷によつて、当初必要であつた右認可手続も後に不要となつた以上、民法一三一条の類推適用により主務官庁の欠除はもはや本件賃貸借契約の無効事由ではなくなつたものというべきであり(再々抗弁2)、(3)更に、仮に本件賃貸借が無効であつても、被告はその主張の如き事由によつてその無効事由を知らなかつたのであるから、原告は右無効をもつて被告に対抗することはできない(再々抗弁3)から、結局いずれにしても本件賃貸借契約は、当初の契約どおり全部有効に存続している旨主張するけれども、(1)寺有財産の処分に主務官庁の認可を必要とした前記布、達は、寺院等宗教団体の保護を目的とした公益的強制規定であつて、右認可は寺有財産の処分についての効力発生要件と解すべきであるから、たとえ旧妙経寺が被告主張のように主務官庁に対する認可の申請手続を怠つたとしても、そのために契約の履行責任を問われることがあるのはともかく、その故に右効力発生要件を欠いた本件賃貸借契約が当然に有効となるものとは到底解されないのみならず、もし被告主張の如く、認可申請手続の不履行を理由に本件賃貸借の無効を主張しえないとすれば、主務官庁の認可なき行為にあたかも認可があつたと同様の法律効果を認める結果となつて、明らかに前記布、達の趣旨に反することになるし、(2)また本件賃貸借契約締結後被告主張の如き寺院に関する法令の変遷があつたことは前記のとおり当事者間に争いがなく、前記布、達施行当時必要とされた寺有財産の処分に関する主務官庁の認可並びに宗教団体法施行当時必要とされた右処分に関する地方長官の認可も、宗教法人令及びこれに代わる現行の宗教法人法が施行されるに及んで不要になつたことは右各法令の規定から明らかであるけれども、およそ法律行為の効力は、その法律行為当時施行されている法令によつて決定されるべきものであつて、その後法令の改廃があつても、その改廃規定において過去になされた法律行為の効力に関し、何らかの経過規定が定められない限り(右各法令にはこの点に関する経過規定は設けられていない。)、過去になされた法律行為の効力に消長をきたすものではないと解するのを相当とするから、現行の宗教法人法の施行によつて主務官庁の認可が本件の如き賃貸借の効力発生要件でなくなつたからといつて、前記布、達の施行当時無効とされた行為が当然に有効となるものでもなく(最高裁判所昭和三七年七月二〇日判決・民集一六巻八号一六三二頁、同昭和四三年二月二七日判決・判例時報五一二号四一頁、各参照)、従つてまた本件に民法一三一条の規定を類推適用すべき余地もないものというべきであり、(3)更に、本件賃貸借契約締結当時の当事者間は原告の前身の旧妙経寺と被告の前身である旧長久寺であつて、原・被告それ自体でないことは前記認定のとおりであるが、原、被告双方とも被告主張の如き寺院に関する法令の変遷に伴い、それぞれ旧妙経寺、旧長久寺の本件賃貸借契約上の権利義務を包括的に承継してきたものであることも前後記のとおりであるから、たとえ被告が右承継に際し本件賃貸借契約に前記認定の如き布、達違反の瑕疵が存在することを知らなかつたとしても、被告は右瑕疵ある賃貸借の承継者として、原告から右瑕疵の存在をもつて対抗されても致方ないものというべく、従つて結局被告の右各再々抗弁もまたいずれもこれを容れるに由なきものといわなければならない。
しかるところ、<証拠>を総合すると、旧長久寺は、本件賃貸借契約成立後直ちに本件土地上に本件無縁墓石を移築して本件土地の使用を開始するとともにその後賃料も逐次これを増額して、昭和二九年以降同三五年までは年額金一、〇〇〇円を支払つてきたが、その間、旧妙経寺からはもちろん、原告からも、後記認定の解約申入れがあるまでは、何らの異議申出もなく、現在に至るまで無縁墓地として本件土地を賃借して来たことを認めることができ、右認定に反する証拠はなく、右認定事実によれば、前記のとおり、昭和一二年一〇月八日、民法六〇二条所定の短期賃貸借として有効に成立した本件賃貸借は、その五年後に黙示の更新を経、その後は期間の定めのない賃貸借として存続してきたものを認めるのが相当である。<後略>
(島崎三郎 三好吉忠 竹中省吾)